「第3.悪意の受益者について」「1.悪意の受益者との主張に対して」について
ア 第1段について
全て不知。争う趣旨である。
但し,被告アイフルが自ら貸金業法43条の主張立証を放棄している点については,争わない。
イ 第2段について
(ア) 被告アイフルの主張
「ところで、貸金業法43条は、登録業者であり、貸金業法17条.18条に規定する書面を適正に交付し、任意に支払ったことが要件であるところ、被告会社はもとより、大手といわれる貸金業者(アコム・プロミス・武富士等)のすべてが、貸金業法17条.18条に規定する書面について、不備であるとの理由で行政処分等を受けたことがないのであって、そして取引について当該顧客等との間で、トラブルなく良好な関係でいるうちは、弁済についても任意に支払っているものと認識することは、まさに、最高裁判決にいう、貸金業法43条が認められるとの認識を有していたことについて、やむを得ないといえる等の特段の事情があったというべきである。」
(イ) 原告の認否及び反論
否認及び争う。
被告アイフルは,前述のとおり,貸金業法43条に関する主張及び立証を放棄している。この点について,次の原告の主張において,被告アイフルが善意受益者でありえないことを主張する。
(ウ) 原告の主張
a そもそも被告アイフルらは,善意受益者ではありえない。
b 平成17年12月15日最高裁第一小法廷判決は,概ね次のように述べている。
「リボルビング方式の場合に,個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから,上告人は,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。上告人は悪意の受益者でないというのは,仮に,当該貸付に係る契約の性質上,法17条1項所定の事項のうち,確定的な記載が不可能な事項があったとしても,貸金業者は,その事項の記載義務を免れるものではなく,その場合には,当該事項に準じた事項を記載すべき義務がある。」
c また,近時の下級審判決である甲府地方裁判所平成21年4月24日判決(事件番号平成20年(ワ)第764号)も「金銭を目的とする消費貸借において利息制限法所定の制限利率を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているというべきものである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の悪意の受益者であると推定されるものというべきである。」と述べて,平成19年7月13日最高裁第二小法廷判決の内容を採用している。
d ところで,貸金業法43条の適用の要件事実として,次の事実が必要である。
(a) 貸主が登録業者であること(以下,「要件(a)」という。)
(b) 貸付けを行う際に「17条書面を交付」していること(以下,「要件(b)」という。)
(c) 貸主が弁済を受ける際に「18条書面を交付」していること(以下,「要件(c)」という。)
(d) 借主が制限超過利息を「任意に弁済」したこと(以下,「要件(d)」という。)
e 4要件に対する当てはめ
(a) 要件(a)について,該当する。
(b) 要件(b)について,被告アイフルは,この主張及び立証を放棄している。
(c) 要件(c)について,被告アイフルは,この主張及び立証を放棄している。
(d) 要件(d)について,被告アイフルは,この要件に該当する旨を主張する。この点,次に述べるとおり,被告アイフルがこの要件を充足していないことは明らかである。
f 被告アイフルが要件(d)を充足しないこと
(a) 平成18年1月24日,最高裁判所第三小法廷判決の判旨は,次のとおりである(甲5号証)。
「(1) 貸金業法43条1項にいう『債務者が利息として任意に支払った』とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解されるものの(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照),前記のとおり,同項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであるから,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,同項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2) 本件期限の利益喪失条項がその文言どおりの効力を有するとすれば,上告人らは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるが,このような結果は,上告人らに対し,期限の利益を喪失する不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができない。本件期限の利益喪失条項のうち,制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして,本件期限の利益喪失条項は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないものであるが,この条項の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって,本件期限の利益喪失条項の下で,債務者が,利息として,制限超過部分を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのが相当である。」
(b) 本件への当てはめ
原告・被告アイフル間にも,債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約があり,この特約の下での制限超過部分の支払がなされてきた事実がある。
従って,本件制限超過部分の支払の任意性は,否定される。
(c) 被告アイフルの主張の理由のないこと
被告アイフルは,「ところで、貸金業法43条は、登録業者であり、貸金業法17条・18条に規定する書面を適正に交付し、任意に支払ったことが要件であるところ、被告会社はもとより、大手といわれる貸金業者(アコム・プロミス・武富士等)のすべてが、貸金業法17条・18条に規定する書面について、不備であるとの理由で行政処分等を受けたことがないのであって、そして取引について当該顧客等との間で、トラブルなく良好な関係でいるうちは、弁済についても任意に支払っているものと認識することは、まさに、最高裁判決にいう、貸金業法43条が認められるとの認識を有していたことについて、やむを得ないといえる等の特段の事情があったというべきである。」と主張する。
しかし,前述のとおり,原告は,期限の利益喪失条項によって,利息制限超過部分の支払を強制されているにもかかわらず,この部分についての言及が全くなされていない。
従って,被告アイフルの主張に理由がないことは明らかである。
ウ 原告の予備的主張
仮に被告アイフルらが善意受益者であった場合について
もっとも,仮に被告らが善意受益者であったとしても,最高裁判所第三小法廷昭和38年12月24日付判決(民集第17巻12号1720頁)にあるとおり,被告らは消費者金融業者として過払金元本から運用利益を得ているのであるから,結局は受領後民事法定利息相当金を支払うべきである。善意受益者と悪意受益者の違いは,悪意受益者は現存しない元本,利息についても返還しなければならないという点にすぎない。要するに善意受益者であろうと,本来返還請求権者にあるべき元本と同様,そこから生じた果実(利息)についても,元本と一緒に返還されるべきなのである。
ここは,従前から言い尽くされ感のある論点です。
しっかりと叩いてやりました。
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弁護士 佐 野 隆 久
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